「放射線副読本(改訂版 昨年9月)」(小学生版と中高生版の2種類)は、
・福島原発事故による放射能被害はなく、周辺地域が安全であるかのように教える
・「避難者や避難した子どもへのいじめを無くす」どころか、いじめを助長しかねない
・政府の「避難指示解除・住宅支援等の打ち切り」と原発再稼働政策を進めるためのもの
この「副読本」が子どもたち・保護者に配布されることに、反対の声をあげてください
問題1 「副読本」は、原発事故による健康被害の現実を無視しています。
「副読本」には
「福島県が平成30 年4月までに県民等に対して実施した内部被ばくによる放射線の量を測定する検査の結果によれば、検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされています。〈中高生版P12 小学生版P12〉」
と書かれています。「検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかった」という主張には根拠がありません。事故前、子ども100万人に1~2人といわれた甲状腺がんは、福島県の甲状腺がん調査(事故当時18歳以下)検討委員会(2018年12月27日)の発表で、悪性ないし悪性疑いの判定数が207人(対象者約38万人)になっています。加えて、2017年6月には「福島県立医科大学病院で甲状腺がん摘出手術をしたが、上記の集計漏れが他に11人いたと発表されました。福島県外でも40人以上の小児甲状腺がん患者が確認されており、福島県外では公的な検査体制がないため、がんが進行してから治療を受ける場合が多く、症状が重篤化しています。
またウクライナ政府報告書には、チェルノブイリ原発事故から30年経て、被ばく者の子どもの健康被害が深刻であることが示されています。そもそも、原発事故後、日本政府は子どもの被ばく線量の測定をしていません。事故2週間後のいわき、川俣、飯舘3市町村の子ども1080人の測定結果だけで、被ばく量が少ないと断言してきたのです。今年1月21日、事故直後双葉町で11歳だった女児の甲状腺は100mSv(国が被ばく影響を認める数値)程度の内部被ばくが推計されると報告されていたのに伏せられていたことが、報道されました。
事故直後「トモダチ作戦」で福島沖にいた米軍艦兵士の死者は9人になり、400人が被ばくの健康被害を訴えています。福島第一原発作業員は白血病や甲状腺がんなどですでに6人が労災認定されました。「健康に影響が及ぶ数値ではなかった」という説明は虚偽であり、あまりにも無責任です。
問題2 「副読本」は、事故を起こした東電や国の責任から目を背け、消費者や放射線を不安に思う人を“風評被害をあおる“と脅して黙らせるものです。
「副読本」には、
「実際の被害ばかりでなく『 原子力発電所の事故による影響を受けたにちがいない』という根拠のない思い込みから生ずる風評によっても、農業や漁業、観光業などに大きな被害がありました。また、放射線を受けたことが原因で原子力発電所の周辺に住んでいた人が放射線を出すようになるというような間違った差別、いじめも起こりました。〈中高生版P16小学生版P15〉
と書かれています。
いじめや差別は、政府の放射能拡散の放置と被害者分断政策に原因があります。福島原発事故からこれまで、政府は広範囲に広がった放射性物質の測定もせず、狭い範囲の行政区に限って恣意的な避難指示を出し、大量の自力避難者を生み出してきました。加害者である東電が被害の有無を認定し、原発事故被害者への賠償額を決めてきました。安倍首相は「汚染水はコントロールされている」と大嘘をつき汚染水の海への放出を容認しながら、オリンピックを誘致しました。
「権威ある医師は線量の測定もせず「大丈夫だ、病は気からだ」と被ばくを我慢させてきました。副読本には「遺伝的影響を示す根拠は報告されていません(中高生版P10)」
と書いてあります。科学の知見である「放射線は遺伝子を傷つける」ことを否定しています。それを教えるのは「風評被害をあおること」にしてしまっています。国や東電が責任を持って被害者救済をせず、被害者の声を聴こうとしないことが、人々を分断し、疑心暗鬼にさせいじめや差別を生むのではないでしょうか。
問題3 「副読本」は、「復興」を強調し、放射線量の高止まりや住民が帰還できない事実を隠しています。
「副読本」では、
「その後、セシウム134 やセシウム137 などの放射性物質を取り除く作業(除染)などにより、放射線量が下がってきた地域では、避難指示の解除が進められました。現在では、医療機関や商業施設などの日常生活を送るための環境整備や学校の再開等復興に向けた取組が着実に進められています。〈中高生版P14小学生用P14〉」
と記述されています。
「除染」は建物や土壌などの表面の放射性物質をはぎ取り、フレコンバッグに入れて仮置き場に集積するという作業ですが、言い換えると高線量の中の被ばく労働によって、放射性物質を集めて移動する作業を意味します。「除染」は「移染」にすぎません。福島県の7割を占める森林の除染は不可能で、「除染」後も雨風で山から放射性物質が降り続け、放射線量が高止まりしているのが事実です。
最近は除染ごみを減らすために、焼却、再利用までされようとしています。福島第一原発のある大熊町・双葉町の広大な土地が除染ごみの「中間貯蔵施設になりました。国は、2017年3月で全体の除染を終了し避難指示解除を進めています。福島の避難指示基準は空間線量が年20mSv以上です。年20mSv以下になれば住宅支援も賠償も打ち切り、帰還を強いています。ところが、国の放射線管理区域(18歳以上の放射線作業従事者が、飲食禁止で働く場所)は避難指示基準より低い年5.2mSv以下と決められています。公衆の被ばく限度は年1mSvです。
国は福島第一原発周辺地域だけ、放射線量年20mSv未満で子どもも普通に暮らしなさいと避難指示を解除しているのです。避難指示が解除されても、放射線量は事故前の100倍、高線量で近づけない溶融炉心を抱え、廃炉作業もままならない事故炉がそばにあります。事故から8年たった今も「原子力緊急事態宣言」が出されたままです。「副読本」は、「復興」を強調することによって、汚染と危険の続いている現実を隠しています。
問題4 「副読本」は子どもが放射線から身を守るために重要な知識である内部被ばくの危険性を説明していません。
「副読本」には
「1mSvの外部被ばくと1mSvの内部被ばくの影響の大きさは同等(中高生版P10)」
と書いてあります。この表現では内部被ばく(鼻や口から放射性物質を取り込んでしまうこと)の危険性がわかりません。
現在、被曝の主な原因となっている放射性物質は半減期30年の セシウム137です。体内に取り込まれたセシウムは血液に乗って体中を駆け巡り、β線を出し続けます。β線による内部被曝はγ線による外部被曝に比べてはるかに電離作用が強く、DNAを切断しガン等を引き起こします。甲状腺がんも事故直後に大量に放出された放射性ヨウ素が口や鼻から取り込まれ、甲状腺に吸収されて起こる内部被ばくが主な原因です。放射性ヨウ素も放射性セシウムも、自然にはなく原発が生み出した人工放射能です。
「放射線を学ぶ」ことは、子どもたちが将来にわたって、健康に安全な生活を送るために大切なことです。放射線の危険性を知って、放射線の被ばくをできるだけ避けるようにしなければなりません。
しかし、「副読本」はもともと自然放射線があるのだから、事故で放出された人工放射線を浴びても大したことがないと思わせたり、放射線の性質のうち「透過性」の説明だけで、細胞・遺伝子を傷つける「電離作用」には触れず、放射線は簡単に防げると思わせます。「副読本」で学ぶことにより、放射線は気にする必要がないと無用の放射線を浴びることにもなりかねません。
最優先にすべきは、被害者の声を伝え、福島原発事故の深刻さを伝えることです。そして、事故によってまき散らされた放射性物質から身を守るための方法を、子どもたちと共に考えるような放射線教育です。
0コメント