「子どもたちに未来をわたしたい・大阪の会」ニュース2014年5月号

5月21日福井地方裁判所が画期的な判決を出しました。簡潔明瞭な判決文の紹介です!


大飯原発3,4号機・運転差し止め請求事件 判決 

「 主文 ・被告(関西電力)は、各原告(大飯原発から250㎞圏内に居住する166名)に対する関係で、大飯発電所3号機4号機の原子炉を運転してはならない。」


「  理   由

1 はじめに  ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命,身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には,その被害の大きさ,程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは, ~~生存を基礎とする人格権が公法,私法を問わず、すべての法分野において,最高の価値を持つとされている以上,本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。

個人の生命,身体,精神及び生活に関する利益は,各人の人格に本質的なものであって,その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(1 3 条, 2 5 条) 、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって,この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは,人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが,その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき,その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。

2 福島原発事故について    福島原発事故においては, 1 5 万人もの住民が避難生活を余儀なくされ,この避難の過程で少なくとも入院患者等6 0 名がその命を失っている。家族の離散という状況や劣悪な避難生活の中でこの人数を遥かに超える人が命を縮めたことは想像に難くない。さらに,原子力委員会委員長が福島第一原発から2 50 キロメートル圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討したのであって, チェルノブイリ事故の場合の住民の避難区域も同様の規模に及んでいる。

年間何ミリシーベルト以上の放射線がどの程度の健康被害を及ぼすかについてはさまざまな見解があり,どの見解に立つかによってあるべき避難区域の広さも変わってくることになるが,既に20 年以上にわたりこの問題に直面し続けてきたウクライナ共和国,ベラノレーシ共和国は,今なお広範囲にわたって避難区域を定めている。両共和国の政府とも住民の早期の帰還を図ろうと考え,住民においても帰還の強い願いを持つことにおいて我が固となんら変わりはないはずである。それにもかかわらず両共和国が上記の対応をとらざるを得ないという事実は,放射性物質のもたらす健康被害について楽観的な見方をした上で避難区域は最小限のもので足りるとする見解の正当性に重大な疑問を投げかけるものである。上記250 キロメートルという数字は緊急時に想定された数字にしかすぎないが,だからといってこの数字が直ちに過大であると判断することはできないというべきである。

3 本件原発に求められるべき安全性

(1) 原子力発電所に求められるべき安全性

1 , 2 に摘示したところによれば,原子力発電所に求められるべき安全性,信頼性は極めて高度なものでなければならず,万一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置がとられなければならない。原子力発電所は,電気の生産という社会的には重要な機能を営むものではあるが,原子力の利用は平和目的に限られているから(原子力基本法2条) .原子力発電所の稼動は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法2 2 条1 項)に属するものであって, 憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきもので

ある。しかるところ,大きな自然災害や戦争以外で,この根源的な権利が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかは想定し難い。かような危険を抽象的にでもはらむ経済活動は,その存在自体が憲法上容認できないというのが極論にすぎるとしても,少なくともかような事態を招く具体的危険性が万がーでもあれば,その差止めが認められるのは当然である。~~~~~~~~~~原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは,福島原発事故を通じて十分に明らかになったといえる。本件訴訟においては,本件原発において,かような事態を招く具体的危険性が万がーでもあるのかが判断の対象とされるべきであり,福島原発事故の後において, この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しいものと考えられる。

(2) 原子炉規制法に基づく審査との関係

(1)の 理は,上記のように人格権の我が国の法制における地位や条理等によって導かれるものであって,原子炉規制法をはじめとする行政法規の在り方,内容によって左右されるものではない。~~~

4 原子力発電所の特性      原子力発電技術は次のような特性を持つ。すなわち,原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは纏めて膨大であるため,運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず, その聞に何時間か電源が失われるだけで事故につながり,いったん発生した事故は時の経過に従って拡大して行くという性質を持つ。このことは,他の技術の多くが運転の停止という単純な操作によって,その被害の拡大の要因の多くが除去されるのとは異なる原子力発電に内在する本質的な危険である。したがって,施設の損傷に結びつき得る地震が起きた場合,速やかに運転を停止し,運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け,万が一に異常が発生したときも放射性物質が発電所敷地外部に漏れ出すことのないようにしなければならず,この止める,冷やす,閉じ込めるという要請はこの3つがそろって初めて原子力発電所の安全性が保たれることとなる。仮に,止めることに失敗するとわずかな地震による損傷や故障でも破滅的な事故を招く可能性がある。福島原発事故では,止めることには成功したが,冷やすことができなかったために放射性物質が外部に放出されることになった。また、我が国においては核燃料は,五重の壁に閉じ込められているという構造によって初めてその安全性が担保されているとされ,その中でも重要な壁が堅固な構造を持つ原子炉格納容器であるとされている。しかるに,本件原発には地震の際の冷やすという機能と閉じ込めるという構造において次のような欠陥がある。

5冷却機能の維持について~~~ 


6閉じ込めるという構造について(使用済み核燃料の危険性)~~   

7 本件原発の現在の安全性     以上にみたように, 国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から守るという観点からみると,本件原発に係る安全技術及び設備は,万全ではないのではないかという疑いが残るというにとどまらず,むしろ,確たる根拠のない楽観的な見通しのもとに初めて成り立ち得る脆弱なものであると認めざるを得ない。

8 原告らのその余の主張について    ~~~~~~~~~~~~~~~

9 被告のその余の主張について      

他方,被告は本件原発の稼動が電力供給の安定性,コストの低減につながると主張するが,当裁判所は,極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり, その議論の当否を判断すること自体,法的には許されないことであると考えている。このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが,たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても,これを国富の流出や喪失というべきではなく,豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり, これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。

また,被告は, 原子力発電所の稼動がC0 2 排出削減に資するもので環境面で優れている旨主張するが,原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって, 福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害,環境汚染であることに照らすと,環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである。

10 結論  以上の次第であり,原告らのうち大飯原発から250 キロメートル圏内に居住する者(原告目録1 記載の各原告)は,本件原発の運転によって直接的にその人格権が侵害される具体的な危険があると認められるから, これらの原告らの請求を認容すべきである。  福井地方裁判所民事第2 部  」