福島原発事故から9年 (9)
原発汚染水の海洋放出を許してはいけません。
福島第一原発の敷地に「原発汚染水」のタンクが約1,000基も並び、2022年夏頃にタンクの置き場所がなくなるとして、国は、政府の有識者会議が示す5つの処分方法(①海洋放出、②パイプラインで地下の地層に注入、③水蒸気として大気に放出、④セメント等で固めて地下に埋設、⑤水素化して大気放出)の内、一番安価な海洋放出案を出し、今年10月中にも決定しようとしました。しかし福島県漁連をはじめ、全漁連や消費者、全国からの強い反対の声によって、海洋放出案について結論が先延ばしになりました。
原発事故によって融け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすための水と原子炉建屋・タービン建屋に流入した地下水が混ざり合って放射能汚染水が発生します。その汚染水を多核種除去装置(ALPS)で処理したものが「原発汚染処理水」です。国は「処理水」と言いますが、ALPSによって除去できないたくさんの放射性物質を含むため、私たちは「汚染水」と呼びます。
約860兆ベクレル(2020年3月東京電力試算)のトリチウムが含まれています。トリチウムはALPSで取り除くことができません。しかし、取り除けるはずのヨウ素129、ルテニウム106、ストロンチウム90等それ以外の放射性物質も基準値以上で残っています。現在タンクにためられている水の約7割で、トリチウム以外の62の放射性核種の濃度が基準値を上回っています。
トリチウム(T)は水素原子核に2個の中性子が入ったもので、とても不安定。半減期は12.32年。β線を出してヘリウムに変わる放射性物質です。
トリチウムのエネルギーは低く、セシウム137の300分の1くらいです。放出するβ線の飛距離も短いため、環境への排出基準は他の放射性物質に比べてゆるくなっています。しかし、トリチウム(T)は水(H2O)を構成(HTO)し、化学的にはただの水なのでなかなか取り除くことができません。
体に入ると細胞に水素として取り込まれ、内部被ばくさせます。体内の有機物と結合す
ると排出されず、体内に長くとどまります。DNAにも入り込み、β線を出してヘリウムに変わると水素結合力が失われDNAを壊します。体内にとどまってそこで放射線を出すセシウムなどと異なる危険性があるのです。
(北海道ガンセンター名誉院長西尾正道医師インタビュー記事より)
1974年の日本放射線影響学会で、トリチウムは低線量でも人間のリンパ球に染色体異常を起こすと報告されています。ドイツでは原発周辺のがんと白血病の調査をして、子どもに影響があるとの結果を得ています。カナダでは、トリチウムを大量に排出する重水炉型原発周辺で小児白血病の増加、新生児死亡の増加、ダウン症などの健康被害が報告されました。また、米国の原発立地地域では乳がんが多くみられます。これは、脂肪組織でトリチウムの残留時間が長いためです。これらは統計的にも有意です。日本ではトリチウム放出量の多い玄海原発の稼働後に白血病死亡率が高まりました。北海道でも泊原発のある泊村は原発稼働後数年すると、がん死亡率が道内市区町村でトップになりました。加圧水型原子炉はトリチウムの排出量が多いのです。
「原子力市民委員会」は、今のままのタンクではなく大型タンク貯蔵案、モルタル固化処分案など政府の有識者会議とは異なる具体的な案を示しています。 (原子力市民委員会声明 http://www.ccnejapan.com/20191003_CCNE.pdf )
海洋放出は地球に住む他国の人々に対しても無責任で許しがたい行為です。放射能が低減するまで、対処できる形で管理しておくことが必要です。その管理は国と東電が責任を持って世代を超えて行うしかありません。
福島県の漁業者は、原発事故から長い間苦しみぬいてきました。放射能汚染の調査のためだけの漁を続け、やっと市場に回せる漁にこぎつきました。地元漁業者は繰り返し海洋放出反対の意思表示をしています。それに呼応して全漁連も強く反対を訴えています。福島県の多くの市町村で「海洋放出反対」あるいは「慎重審議」の決議をあげています。
(美浜の会ニュースNo.164 2020/6/26全漁連声明と反対決議・意見書の福島県市町村http://www.jca.apc.org/mihama/News/news164/news164osensui.pdf )
汚染水の海洋放出は原発事故被害者を二重に苦しめるものです。私たちも共に反対の声をあげていきましょう。
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