シリーズ ① の補足です


福島原発事故の初期被ばく線量は測定されていない。


 小児甲状腺がんの多くは、原発からまき散らされた放射性ヨウ素を甲状腺が取り込んで発症します。放射性ヨウ素131は半減期が8日と短いので、初期被ばく線量が重要な鍵といえます。原発事故が起きて避難した人が避難所に入るためには、体表面の被ばく検査(スクリーニング)を受け、「基準値以下」の証明が必要です。原発事故前、その基準値は甲状腺がん発症リスクのある13,000cpm(甲状腺等価線量100mSv、cpm:1分間に放出される放射線数)に定められ、基準値を超えた人は甲状腺の内部被ばくを測定することになっていました。ところが、福島原発事故が起きたとき、基準値超えの人が続出し、避難が遅れるからと基準値が100,000cpmに引き上げられ、甲状腺被ばくの測定も省略されるという事態が起きたのです。記録はされず、本人も線量値を知らされずに避難しました。放射性ヨウ素の取り込みを防ぐ安定ヨウ素剤もありませんでした。当時、原発事故後のスクリーニングで「双葉町の11歳の少女が100mSvを超える被ばく」、「10万cpm程度多数」など高線量被ばくを示す言葉が放医研に届いており、高線量被ばくをした子どもがいたことは明らかです。これらの事実が闇に葬られたことは、「福島が沈黙した日」(榊原崇仁著・集英社新書)に詳しく書かれています。

 政府は、事故2週間後、原発から35~45kmの15歳以下の子ども1080人の甲状腺被ばくモニタリングを行い、事故による甲状腺被ばくは最大でも50mSvとしました。30万人以上を測定したチェルノブイリと比べて「福島は被ばく線量が少ない」と決めつけ「甲状腺がん多発は放射線の影響とは考えにくい」と甲状腺検査評価部会が結論づけています。国連科学委員会(UNSCEAR)も「被ばくが直接の原因となる健康への影響は低い」と2021年報告を公表しました。

 チェルノブイリとの違いを盾に原発事故後の現実から目をそらし、無防備に原発再稼働に進む国は、原発事故の犠牲を踏みにじっています。


 「NPO法人3・11甲状腺がん子ども基金」の統計では、福島県内外の比較で、県外の方が甲状腺全摘出や遠隔転移など重症者が多くなっています。これは、県の学校検査で自覚症状が出る前の早期発見ができて軽症で済んだという大きなメリットを示しています。 

 甲状腺がんは、予後が良いと言っても転移やホルモン剤の服用、声帯損傷や気管狭窄など罹患前の体が取り戻せていない人もいます。何より精神的負担は大きいです。

  県立医大で殆どの手術を行った鈴木眞一氏や3月22日の評価部会に出席していた県立医大の医師たちは、「甲状腺検査は、過剰診断ではなくガイドラインに沿った適切な検査だ」と明言しています。