「避難計画を案ずる関西連絡会」主催 飛田晋秀さんの講演会報告
7月27日大阪で飛田晋秀さんの講演会を開きました。当日は、悪天候にもかかわらず、会場は満席。大阪・兵庫、京都・滋賀・和歌山そして福井からの参加者もありました。長年伝統産業の職人を撮り、職人を応援してきたカメラマンの飛田さんが、苦悩しながら撮影対象を原発事故被災地に変え、惨状を全国に伝えようとする使命感がひしひしと伝わってきました。
以下飛田さんのお話を紹介します。
被災地を撮り始めたきっかけ
帰還困難区域に初めて足を踏み入れたのは2012年1月、この時は、つらくてシャッターをきれなかった。報道カメラマンとの違いを感じた。写真を通して悲惨な状況を伝えなければいけないという強く思うようになったきっかけは、2012年8月に出会った少女に「大人になったらお嫁に行けるか」と聞かれ、「ごめんね」としか返事ができなかったことである。
「復興」の陰で心を病む人々
政府や福島県は大金をかけて箱物を作り、形が整えば住民はどうなっても良いと考えている。マスコミは復興が進み、避難者の帰還が進んでいるかのように報道する。しかし、家族や知り合いが離散し、補償交渉が進まない中でうつ状態になる人もいる。特に高齢者やハンディある子どものいる家庭では年月が経つほど深刻さが増している。
高線量が平常の地域
事故前は0.03~0.05μSv/hだった双葉町の除染ごみ仮置き場は2.71μSv/h。100倍近い線量になっている。「防護服不要」の看板の横のモニタリングポストは1.90μSv/hを示していた。
国道114号を通ると、車内でも4.23μSv/hになる。車のみ通行許可地点では6μSv/hを超えた。双葉町・大熊町に建設される除染ごみの中間貯蔵施設は東京ドーム20個分。30年後は他県に持って行く約束だが、若い人は戻らず、年寄りは30年後にはいない。住民から「最終処分地に」という要求が出るのを待っている。
除染のために切った木をチップ化し、焼却すれば灰が拡散する。4年前に双葉町の家の玄関先で測った線量が27.4μSv/h、今年は43μSv/hに増えていた。4月以降フレコンバックを運ぶトラックが2500台も往来しているが、そのトラックは福島だけでは足りず、全国から来ている。
「大金をかけ箱物を建設」=幻の「復興」
人口11000人の大熊町の役場は31億円かけて新設された。しかし町の職員は、避難して住まいを郡山、いわき、南相馬に持ち、最初に避難した会津若松から3時間かけて通う人もいる。町役場の近くに原発作業員宿舎がある。原発で働けるのは、その地域に住民票がある人に限られており、住民票を移した700人は作業員で、大熊町に戻る住民は10人か20人ほどだろう。
飯舘村では40億円かけて小中学校を建設した。そこに100人弱の子どもが通っているが、タクシー送迎に年間1億7000万円かけている。除染しても人が入れないような高線量の地域に大量のゼオライトを投入してゼネコンに金儲けさせている。32億円かけた飯舘村の道の駅は3200万円の赤字を出して3000万円の補助を受けている。
住民を分断して黙らせる国
浪江町津島損害賠償裁判では国側の弁護士が「あなたは既にこれだけの金をもらっているね。」と詰め寄る。裁判に訴える住民は「そんなにカネが欲しいのか」とたたかれる。避難した人間は福島を捨てて逃げた卑怯者と揶揄される。「金なんかいらない。元通りの家族とコミュニティーを返してくれ」と裁判原告は訴えている。
年20mSvが避難指示解除の世界基準に
年20mSvを超えないと避難させないという日本の政策がフランスにも伝わっている。世界の原発推進勢力は福島を手本にしようとしている。そうならないように、生きている限り伝えていく。 講演後の質問も重要な問題ばかりでした。
・作業員の被ばく管理のずさんさ。帰還困難区域の除染作業でも防護服着用は義務ではない。携行したガラスバッチは取り上げられる。
・廃棄したとされていたオフサイトセンター事故直後のファックスが米国に渡っている。
・生業裁判で、畑仕事の被ばくは自己責任。「畑に行く途中に線量が高いところがあれば、息をしないで走ってくださいと言われた」と原告は語っている。
・福島では本当のことを語れない。「保養」という言葉すら言えなくなっている。水俣病問題の初めの頃とよく似ている。
帰還困難区域で特定復興拠点となった菅野みずえさんのお話は、「避難した後30年は帰ることができないと国の役人に言われたが、家の周りを3.8μSv/hまで除染し、僅か8年で4年後には避難指示を解除し、帰れと国は言う。今家を取り壊すなら、復興予算が付くが、期限を過ぎたら解体や家屋の汚染廃材は自力処理だと追い詰める」というものでした。語られた国の計画は被災者不在の冷酷な内容ばかりでした。
最後に主催者「避難関西」の活動紹介が報告されました。
本の紹介
漫画「ゲンパッチー」ちづよ著 2019.8.10発行 石風社
原発のお話し・子どもたちへのメッセージ 1500円+税
人任せにしない「イキルスベ(生きる術)」を学べる原発解説書です。
作者のちづよさんは、あとがきに「子どもでも楽しく読めて、今問題とされている原発のことが少しでも理解できるようにと願い」書いたと記しています。その願い通り、「ゲンパッチー」は、ファンタジーの世界に原爆や放射線、原発を取り巻くさまざまな問題を盛り込まれ、わかりやすく解説されていて、核は使っちゃダメとみんなに伝え行動しようと呼びかけています。
子ども向けであっても、専門資料に基づき、反原発事務所に足を運び書きあげた、後は専門的なチェックも受けた詳しく正確な内容で、「放射線読本」としてすべての人に推薦したい漫画です。
あらすじ
上手にできた折り紙を見て欲しいのに、お母さんたちは原発再稼働の話に夢中。7歳のあかねちゃんが「お母さん!ゲンパツ ゲンパツ うるさいわーっ」と怒りながら「ゲンパツってなによ」と尋ねる。お母さんは「電気を作るとこなんやけど」と言いながら家の中で電気が使われているもの探しっこゲームを始める。
その夜、夢の中で子どもたちは折紙の鶴、馬、いるかに乗って電線に沿って発電所に向かう。発電所の種類と特徴を知り、ウラン燃料を食べて動く原子力発電ゲンパッチ―に出会う。ウラン鉱山での被ばく、定期点検での被ばく労働や外国人労働者も話題になる。
夢のエネルギー、核燃料サイクルはゲンパッチ―のおばあちゃんが教えてくれる。使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは長崎原爆の材料、そのプルトニウムを取り出すための再処理、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を使う高速増殖炉もんじゅ。ところがもんじゅは稼働できないまま廃炉決定。余ったプルトニウムを使うにはウラン用の原子炉をMOX燃料で稼働しなければならない。それがどんなに危険か聞いたゲンパッチ―は、MOX燃料なんか食べたくないと怒り出す。
次にゲンパッチ―がおばあちゃんと向かうのは青森県六ヶ所村の使用済み核燃料再処理工場。使用済み核燃料は、再処理で何倍もの核ごみになり、再処理で生じる高レベル放射性廃液は、事実上ガラス固化できず、失敗ばかり。再処理せずに直接処分するには30~50年管理センターで冷却しなければならない。埋める場所もない。とりあえずのゴミ置き場=中間貯蔵施設を作りたい。原発を動かし続ければ日本中は核のゴミ置き場でいっぱいになる。中間貯蔵施設は最終核ゴミ置き場に。
そして、フクイチくん。2011年3月11日大地震と津波、フクイチくん全電源喪失、メルトダウン。水素爆発。大気汚染、土壌汚染、汚染水、広い地域が放射線で汚染されてしまった。日本政府の情報隠し。人々はバラバラになり心も傷ついた。フクイチくんから放射能は漏れたまま、たくさんの人が廃炉に向けて被ばく労働。日本政府が出した「原子力緊急事態宣言」は未だに解除されていない。
こんな事故があったのに日本では原発「再稼働」を進めている。事故はスリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故、茨城県JCO臨界事故でも起きた。これ以上原発を動かしたら大変だ。自分で未来を切り開くために、原発はダメだってみんなに伝えなければ・・・。
0コメント